ホテル

IN THE LIBRARY hotel and books TOKOROZAWA

2025年 | 改修

基本設計・デザイン監修・デザイン業務・照明・サイン・施工・内装工事・設備工事

 

端正な空間と、莫大な本との共存

前身の体験型宿泊施設「EJアニメホテル」から、隣接の角川ミュージアムに寄せた「ライブラリーホテル」へとリブランディングする——このコンセプト自体は、私たちが参加する以前からすでに決定していました。そこで私たちが向き合うことになったのは、「角川ミュージアムの『本棚劇場/エディットタウン』を模するには、莫大な本が必要になるのでは」という不安です。

 

クライアントであるホテルブランド運営会社様が当初思い描いていたのは、大量の本による雑然とした「編集の多様性」の表現でした。角川ミュージアムの中核をなす「本棚劇場/エディットタウン」の、世界観を支える重要な要素です。これをホテルでも再現しようとすると、相当な物量の本が必要になります。しかしこのホテルの既存空間は、格子状の天井やオーセンティックなホールなど、非常に端正なしつらえで、空間そのものがすでに「編集済みのパッケージ」を構成しているように感じられました。そのため、「本棚劇場」さながらのカオスを持ち込むよりも、この端正さを活かすほうが「編集」という行為そのものを際立たせられるのではないか——そう確信したことが、プロジェクトの出発点になりました。

少ない物量で、「編集の多様性」を宿す“旅のゲート”

では、その「編集」を、本の物量に頼らずどう表現するか。私たちが導き出した答えは、ジャングルジム状の「ゲート=本棚」をつくることでした。本の量ではなく、グリッド状のフレームという「世界観」の中で語ればいい。フレームの中にランダムに本を配置することで、少ない物量でも「編集の多様性」を効果的に伝えられると考えたのです。

結果としてこのグリッド・ゲートは、書物の世界への「旅の入口」という、ホテルにふさわしい表現にも落とし込むことができました。また、東所沢というきわめてローカルな立地にありながら、このゲートをくぐった瞬間に広大な「異世界」への旅が始まる。そのギャップに「旅」の面白さを感じていただける場所になったと思います。

 

エントランスの「ゲート」はあえてすっきりと見せる一方、「ライブラリーホテル」としての世界観を体現するため、本の物量は「the crossroads(ラウンジ)」や「the big table(読書スペース)」に分散させました。こうして、端正な佇まいを保ちながらも、5,000冊を超える本をホテル全体に配置することができています。

当初クライアントが描いていたイメージから表現手法は少々変わりましたが、スムーズに受け入れていただき、最終的にはホテルオーナーへのプレゼン資料にも、私たちのコア・アイデアをそのまま記載してくださいました。

 

客室については、リブランディングに伴いプロジェクターを撤去し、新たにTVを設置することが決まっていました。そこで、部屋ごとにホテルスタッフが選んだ3冊の本を添え、「本でもTVでも、お好きなほうをどうぞ」という、お客様の自由を尊重するメッセージを空間から発信しています。

壁面には、サブカルチャーに強いアイデンティティを持つKADOKAWAさんのイメージから、漫画のコマをイメージしたグラフィックをあしらいました。ただし、吹き出しの中はあえて空白にしています。客室に置かれた3冊の選書や、ライブラリー空間に並ぶ本たちが、この空白の吹き出しを通して語りかけてくる——そのような感覚を狙った仕掛けです。

わずかな工夫で、空間体験は大きく変化する

私たちは通常、ゼロから課題を発見し、ブランディングを組み立てていくプロセスを踏むことが多いのですが、今回は改修・リブランディングという既定の与件があり、そこから逆算してコンセプトのオリジナリティを生み出すという、普段とは逆のプロセスを歩みました。「既存のオーセンティックで端正な空間に、カオスは似合わない」という確信を起点に、書物の多様な世界への旅をいかにシンプルに、魅力的に、そしてユニークに表現するか——最後までその探求を貫いています。

 

今回のような改修プロジェクトでは、大規模につくり変えるのではなく、既存の空間を活かしながら、わずかな工夫を加えることでお客様の体験を変えるアプローチを取ることが少なくありません。コストを抑えながらも、印象や体験は大きく変わる。そうした小さな気づきに目を留め、こだわり抜くことこそが、私たちの強みです。

 

また、空間そのものだけでなく、そこに置かれる小物や音楽、香りに至るまで、さまざまな細部に注目していく点もトータルに可能性をご提案できるのもCD-Rらしさです。「面白いことをしてほしい」と明確に言葉にされるお客様は多くありませんが、それでも一定数のお客様は、人を、ユーザーを動かすような面白さを、心のどこかで求めています。空間にまだ眠っている、気づかれていない可能性を見つけ出し、期待を超える答えをご提案すること——それが私たちCD-Rの使命だと考えています。

person in charge
クリエイティブディレクター

松田眞介

1969年 東京生まれ、福岡育ち。武蔵野美術大学造形学部卒。 設計事務所勤務を経て現職。(社名変更:東急アメニックス~ 東急ホームズ~東急Re・デザイン) 音楽・ファッション・アートなど、さまざまなカルチャーを バックボーンにユーザーの体験価値を提案するチーム「CD-R」を 2017年に設立・主宰。2014年から「ミラノデザインウィーク」を 定点観測するデザイン・ウォッチャーでもある。